はじめに
ホームヘルパーやガイドヘルパーなど、視覚障害老人を援助している人々が全国にたくさんいますが、視覚障害老人を援助するためのガイドブックが今までなかったので、ぜひ作って欲しいという声が聞かれるようになりました。
視覚障害老人については「目が見えないのだから、何もできない」と思っている人も多いかもしれませんが、適切な援助があれば自立も可能になります。ヘルパーとしては、ただお世話するのではなく、老人のできることは老人自身にしてもらい、できないことができるように援助する、そのことが、援助の基本となります。
ただ、援助の過程では、いろいろな配慮も必要です。物の位置を知らせるときに「そこにあります」といっても、目の不自由な人にとってはどこにあるのかわかりません。お風呂で何も言わずにいきなりお湯をかけると、びっくりしてしまいます。このガイドブックでは、いろいろな場面で、ついうっかりがないように、活用してもらうことを目的に執筆しました。
実際に、視覚障害老人を援助しているホームヘルパーの皆様にとっては、少し物足りない内容かもしれませんが、日々の援助をチェックするために役立てて頂きたいと思います。また、老人ホームや老人保健施設の職員・病院の看護婦・ボランティアなど、多くの皆様には基本的な援助の手引きとして、ぜひ活用して頂きたいと思っております。
このガイドブックの表題の「ふれあう」は全国盲老人福祉施設連絡協議会本間昭雄会長が、やさしい気持ちで援助して、心と心がふれあうことで、すばらしい信頼関係が生まれる事を願ってつけました。




 代わりに読む、書く
 家族からの手紙や新聞などを代わりに読むことを代読と言います。読む時は、ゆっくり、はっきりを心掛け、固有名詞など分からない文字は、どんな文字かを説明し、読み方を聞いて下さい。また、必ず辞書を携帯しておくようにしましょう。
 代筆(代わりに書く)は、視覚障害老人が言うとおりに正確に書き、文字が分からないときは聞くか、辞書で調べてください。けっして、じょうずに書く必要はありませんが、なるべく丁寧に書いてください。
 代読も代筆もプライバシーにかかわることが多いですので他人に知らせることのないように、特に注意が必要です。
 視覚障害老人の中には点字の読み書きができる人もいます。援助者が点字ができれば、老人とのコミュニケーションは更に広がります。点字は 難しいものと決めつけないで、取り組んでみて下さい。
 
 掃除と洗濯のときは
 掃除や選択は、視覚障害老人自身でしてもらうのが基本です。掃除はなるべく、ほうきではなく掃除機を使ってもらった方がきれいに掃除できるようですが、とは言っても触覚だけできれいになったかどうかを確かめますので、ほこりやちりが残っていることも良くあります。訪問時に部屋の掃除をする時は、なるべく一緒にすると、ほこりやちりが残りやすい場所を教えられます。
 掃除をしながら、物を移動する時は、特に注意が必要です。一見煩雑に見えても、視覚障害老人は自分の判りやすいように物をならべていたり、重ねています。物を動かすときは必ず本人に確認し、掃除後はもとの位置に置くようにして下さい。
 洗濯は、今ではほとんど洗濯機で行っていると思いますが、なるべく操作の簡単な全自動洗濯機を使うよう勧めて下さい。洗濯機や乾燥機でわかりにくいのが、洗濯・脱水・乾燥のタイマーのつまみです。標準の時間のところにテープを貼っておくと、時間を自分で調整できます。
 
 外出先のトイレでは
 外出先でトイレに行く場合、お風呂と同じで、援助する老人が異性の時は困ります。その時は、周囲の人に事情を話し、トイレの中に入り、便器やトイレットペーパー、洗面所の位置を説明し、終わった時点で声をかけるよう話し、トイレの外で待ちます。
 便器の位置を教えるには、男性の場合は、小便器上の水を流すボタンに手を触れてもらいます。女性の場合、水を流すレバーと様式便器のフタに手を触れてもらいますが、和式は判りにくいですので、位置の確認を特に丁寧に教えて下さい。
 
 お風呂に入るときは
 在宅の視覚障害老人の場合、お風呂は一人ではいることが多いと思いますが、お風呂の中が整理されているか見てください。物が多すぎて煩雑だと、入浴中につまづき転倒することもあります。特に、石鹸には十分気をつけるよう話してください。できればポンプ式の液状石鹸を使うことを進めてみてはどうでしょうか。シャンプーとリンスのボトルの区別は片方にテープを張るなどの工夫もいいですが、後述するバリアフリー商品の利用も勧めてみて下さい。
 自宅以外のお風呂に入るときは、援助者が老人と同性の場合は、一緒に入り介助できますが、異性の場合は、お風呂場の浴槽や洗い場、石鹸の位置などを良く説明し、一人で入浴してもらいます。脱衣場では、なるべく分かりやすい位置(棚の一番端など)にかごを置いてもらうと、入浴後も一人でかごを見つけられます。
 衣類を着るとき、裏表や前うしろを間違えることがあります。下着(シャツ)などについているタグの位置を確認し着るように教えて下さい。丸首のセーターも判りにくいので、内側に布などを縫い付け、印にする工夫も良いと思います。
 援助者が一緒にお風呂にはいるか、介助できる時は、視覚障害老人の身体の状態(湿疹など)にも注意してください。
 
 席についたら・席をはずすとき
 担当している視覚障害老人が、視力障害者の会のメンバーだったり、老人クラブに入っている場合、会合の機会もあると思います。会合の場所に一緒に行く時は、前もって、道順を調べておき、時間も十分余裕を持たせて出かけましょう。
 会場の席に着いたら、中の様子を説明いします。例えば「正面は左で、今のところ30人ぐらい来ています」というようにです。正面の方向を教えないと、スピーカーの方向を見てうなずくということになります。また、隣や向かいの人の名前が分かる時は、教えてください。
 援助者が電話をかける用意ができたり、物を取りに行かなければならず席をはずすときは、「ちょっと、席をはずしますから」と、必ず声をかけてから席をはずしてください。黙って席をはずすと、視覚障害老人がいない相手に向かって話しているということにもなります。
 
 椅子にかけてもらうには
 目の不自由な人を椅子にかけさせようとする時、うしろや前から両肩を押したりする人がいますが、もっともしてはいけないことです。
 椅子にかけてもらう時は、椅子の背に手を触れてもらい、テーブルがある場合は、テーブルにも手を触れてもらった方が高さも分かりますのでいいと思います。和室の場合は、座布団の位置を手で教え、座る向きも知らせてください。
 どういう場面でも、説明や物の位置を知らせる時など、人前では、あまり大きな声を出さないようにしたいものです。視覚障害老人が恥ずかしい思いをし、人格を傷つけられるからです。聞こえる程度に説明し、まわりからも自然な振る舞いに見えることが大切です。
 
 車の乗り降りは
 乗用車やタクシーに乗るときには、車がどちらの方向を向いているか知らせるためにも、まず、開いているドアに手を触れてもらい、次に屋根のところに触れ、高さを確認してもらい、座席に触れてもらうと、視覚障害老人は一人でも車に乗れます。特に高さの確認は忘れないようにしてください。確認をしても、つい頭をぶつけることもありますので、車の乗り降りに慣れていない視覚障害老人の場合は、ガイド者が屋根のふちのところに手を添えるといいと思います。
 降りるときは、ガイド者が先に降り、足を下ろすところが安全か確認してください。良くあることですが、歩道に近いところに車が止まることがあります。その場合は、歩道から少し離れて車を止めてもらうか、「足を前に伸ばして降りてください」などと声をかけてください。
 
 階段や段差では
 てびきしていると、段差が結構多いことに気が付くと思います。ガイド者にとって、階段は特に神経を使うところです。階段の前では、一旦止まり、「階段を上がります」と声をかけてから、手引きの姿勢のまま上がってください。しかし、屋内で手摺があり、視覚障害老人も手摺につかまった方が歩きやすい場合は、その通りにしてください。5段程度の階段は、上がり降りする前に、「5段上がり(降り)ます」と声をかけ、長い階段では上がり(降り)きる前に「あと2段です」と声をかけると親切です。
 段差も同じ要領です。前で一旦止まり、「小さく一段上がり(降り)ます」と声をかけてください。小さな段差だから大丈夫、と勝手に判断すると、以外に小さな段差でつまづき、転倒することが多いので、気をつけましょう。一旦止まり、適切な声がけが基本ですので覚えておいてください。
 
 手引きをするときは
 手引きをする時は、最初は緊張から肩に力が入ったりするかもしれませんが、ガイド者がそういう状態だと、視覚障害老人は歩くのがとても不安です。あまり意識せず、気軽に一緒に歩くという気持ちで手引きしてください。
 左のイラストのように、ガイド者が右腕をかし、少し前に出るようにし、歩きやすいフォームで 手引きしてください。歩く速度は相手に合わせることも大事なことです。どんな場面でも後から押したり、無理にひっぱるような手引きは絶対にしないでください。
 視覚障害老人の中には、肩に手を添えるほうが良い人、手をつないだ方が歩きやすい人がいます。その場合は、やはりガイド者が、相手が望む手引きに慣れるべきですが、ためしに、左のイラストのような手引きも一緒に練習してみてはどうでしょうか。また、同僚の職員に目かくしをしてもらい、手引きの方法を練習することも良いと思います。
 
 外出は楽しみ
 買物に行くなどの外出は、楽しみの一つです。普段、家にとじこもりがちですので、とても良い気分転換になります。外出の前には、外の空気や天気予報を確認し、それにあわせたい類や傘などの準備をし、白杖も忘れずに持ってもらい、出かけるようにしましょう。
 道路を歩く時は、ガイド者は車の通行側を歩いてください。ただ、あまり車ばかり気をとられていると、視覚障害老人側の側溝、道路のくぼみや木の枝、看板等に気づかず、事故につながりますので、注意が必要です。安全なところなどでは、細心の注意を払うということが基本です。また、外出している時には、会話も楽しみたいものです。周りの状況の説明や世間話をしながら歩くと、心もなごみ、楽しさも増します。
 
 お金を数えて渡しましょう
 自動販売機でつり銭をとろうとしたら、自分のつり銭より多く入っていたということがあります。私たちは意外に、お金を数えないと言うことが多いのかもしれません。また、銀行員に両替えを頼んだ時でも、数えなおすと相手を信用していないようで、気が引けたりもします。しかし、視覚障害老人にお金を渡す時は、それでは困ります。お金によるトラブルが結構多く、信頼関係も失われてしまうからです。
 お金を渡す時は、金種別に一枚ずつ、例えば「千円札を渡します。1枚、2枚・・・・・5枚で5千円です」というように、声を出し、数えながら手渡してください。視覚障害老人の中には、「あなたを信用しているから数えなくていいよ」という人もいるかもしれませんが、その場合でも、「私も確認したいから」と言って、必ず数えて渡すようにして下さい。
 
 お茶などをすすめるときは
 お茶やコーヒーなどをすすめる場合や、外出先ですすめられた場合は、援助者はイラストのように手を添えて触れさせてあげると、安心して飲むことができます。「お茶です」と言って、テーブルに置くだけですと、手探りで探しているうちに、湯飲み茶碗をたおし、やけどをすることもあります。お茶を入れかえたときも同様にし、ふた付きの湯飲み茶碗の時は、忘れないで教えて下さい。
 コーヒーが出されたときも、同じ要領で行います。砂糖やミルクの位置も教え、老人自身で入れてもらいますが、多く入ってしまう場合もありますので、入れる量を聞いて、入れてあげても良いと思います。
 
 食事をするときは
 多くの盲老人ホームでは、食事前に、時計の文字盤の方向で献立の説明をしています。イラストの「献立の説明例」のようにです。あらかじめ食べ物の位置がわかれば、自分の好きなものを自由に食べられ、とても楽しい食事となります。また、嫌いなものを自分で寄せることが出来ないので、一つだけ嫌いなものがあっても、そのおかずには手を付けないということもありますので、どんな材料が入っているかも教えて下さい。嫌いな材料は寄せてあげると、なお親切です。しょう油やソースも希望により、かけて下さい。
 在宅の視覚障害老人には、いきなり「1時」『5時」と言っても、わからない人が多いと思いますので、最初は「右上」「左下」と説明してもかまいませんが、覚えてもらうといろいろな場面で活用できますので、徐々に時計の文字盤方向の説明に慣れてもらいましょう。食事の際はどうしても、手を使うのが多いので、オシボリを用意し、食べやすいように、盛りつけや器の選び方に工夫することも大切です。
 
 初めての出会いでは
 初めて目の不自由な人と会う時は、どのように挨拶したらいいか、失礼なことを言わないだろうかなど、不安な気持ちになると思います。しかし、あまり意識し過ぎると、会ったときに、態度が不自然になり、ギクシャクしてしまいます。視覚障害をあまり意識せず、自然に振るまってください。
視覚障害老人宅を初めて訪問する時は、ドアをノックし、「ホームヘルパーの○○です。入ってもよろしいでしょうか」と声をかけ、始めに軽く握手をし、「はじめまして」と挨拶してください。握手することにより、相手がどこにいるのか、背の高さはどのくらいかがわかります。そして、何よりも親近感を持ってもらえます。スキンシップはとても大切なことです。

 
 指先で見てもらう
 目の不自由な人が買い物をしている時に、援助者が横で言葉だけで説明している場面を見かけた事があります。
「物に触れてもらうと、もっと良くわかるのに」と思ったものです。
衣類は触れることにより、生地の素材や大きさがわかります。お菓子なども大きさや量がわかります。触れると困るもの以外は、なるべく触れてもらい、視覚障害老人が納得しながら買物できるようにしたいものです。
 また、野山を散策した時なども、草花に触れてもらうことにより、どんなにか楽しみが増すことでしょう。
 指先は、目の不自由な人の「目」です。 触れて、想像することで、すばらしい世界が広がります。
 
 ラジオ感覚を忘れずに
 一度ためしに、テレビを、目を閉じて聞いてみてください。ドラマは、人の動きの説明などありませんので、内容が良くわからなかったり、ニュースでは、外国人へのインタビューなど字幕の場合、やはり内容がわかりません。
視覚障害老人と一緒にいると、いろいろな場面で説明が必要です。つい、自分の見えている感覚で説明すると、相手は何を言っているのか理解できないということがあります。その時は、ラジオだったら、どういう言い方をするのかな?と、ちょっと考えてみてはどうでしょうか。ラジオをしばらく聞いて、研究するのもいいかもしれません。
説明はくどすぎても困りますが、簡単すぎてもよくわかりません。要領の良い説明ができることも、視覚障害老人を援助する大切な事の一つです。
 

 声には表情がある

 「○○さん、何か心配ごとでもあるの」と視覚障害老人から言われて、ハッとする事があります。少し気になっていることがあると、自然と声に出ていることが多いのです。私たちが顔の表情で、ある程度相手の考えていること、感じていることを判断するのと同じように、視覚障害老人は声で判断します。つまり、声には表情があるのです。
電話でも、相手の言い方で嫌な思いをした経験がある方は多いと思います。どんなに、嫌なことがあっても、常に、明るい声で接してもらいたいものです。また、言葉づかいにも気を配り、信頼関係を築くのは、まず「言葉」からということを忘れないで、日常生活の援助をしてください。



「視覚障害老人を援助する人々のためのガイドブック ふれあう」 発行元
編 集: 
全盲老連 ガイドブック編集委員
発 行: 
全国盲老人福祉施設連絡協議会


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